靴の随想(3)扁平足

荻原一輝先生の随想です。

靴の随想(3)・・・扁平足

 前回「扁平足」のことを書きましたら、いろいろのご意見を頂きました。これを読んでいるうちにもっと古い事を思い出しました。最初に書いた様に、私は略昭和の年数と同じに成長してきました。大体小学校に入る前頃に国内では幾つかのクーデターがあり、中国でも小さい戦争が「事変」と称して始まっていたのです。
日本中学校では「富国強兵」という教育で、男の子は大きくなったら元気な兵隊になる事を先生も、自分自身も理想と考えていました。
 それで「扁平足」です。その頃の(今でも?)「兵隊」は「歩兵」が中心で、兎に角歩かなければならない。所が何時の頃からか「偏平足の人は長距離歩行で足が痛くなり、歩兵には好ましくない。」という考えが広がり、多分小学校の四年生か五年生の頃、教室で裸足の足をバケツの水に浸けた後に歩行して、フットプリントを先生が見て「お前は扁平足!」「お前は大丈夫。」と判定された。扁平足とされた子供は毎日居残りさせられて、運動場を踵を上げて何メートルか歩行する、砂場を裸足でぐるぐる歩く練習をする等の訓練?を強制されました。1学期が済んだ頃、再度「バケツの水テスト」があり、扁平足でないと云う判定がなければ次の学期も居残り訓練でした。私は最初に「扁平足」とされ、次の時に「治っている。」と云う事で、一学期で済んだ記憶があります。
 今から考えるとフットプリントを、素人が診断?するのですから、無茶な話ですし、それよりも「扁平足は長徒歩行に耐えられない。」と云う事に医学的根拠があったのでしょうか。(巷間伝えられる所では、森鴎外・・林太郎軍医総監が指示したとの事です。)
 しかし「扁平足と歩行障害」は長く信じられて居て、これが先に述べた「扁平足に足底挿板」の根拠になっていたのでしょう。
少なくとも昭和30年代に総合病院の整形外科医長であった私は(もうこの頃は水バケツ法でなく、私は横倉法に準じてX-P撮影を行い、時にはこれを計測して「扁平足の診断」を行い、その人には私が自分でギプスによる採型を行い、時には挿板完成後その上に足を乗せて再度撮影を行なって着けて貰っていました。しかしその効果はあまりよくなく、これを有る期間着用して、扁平足が改善されたとはみとめませんでしたし、痛みがなくなった事もあまり聞かなかった様に思います。
 ここまではまだ私が「靴医学」に興味を持つ以前のことで、その後1例は手術を試み、或いは年少の子供で特に脳性小児マヒの人に「スピッツィの挿板」を着けた事がありますが、聊か専門的になりますので、これは稿を改めて書く事にします。